長時間労働の削減について その1
 電通の従業員が長時間労働の果てに自死を選ばれたニュースは、まだ記憶に新しいかと思います。この痛ましい事件に関連する形で、長時間労働を減らす施策が政府からも出てきています。これらの政府から出されたものの中には、中小企業では対応が難しいものもあるとは思いますが、政府に言われるからということではなく、できる限り長時間労働は削減をした方が望ましいです。
 今回から3回に分けて、長時間労働に関連してご注意いただきたいお話を書いていきます。

 長時間労働は、労働者だけではなく経営者にとってもデメリットが大きいものです。
 まず、長時間労働となった場合には、給与を時間外労働の割増しを付けて支払わなければなりません。労働基準法では、1週40時間1日8時間を超える労働は基本的に禁止となっています。しかし、それを超えて労働させる場合には、25%増しの給与を支払う義務が課されています。もし残業が深夜にまで及んだともなれば、深夜労働に関する割増の25%を加算して、50%増しで支払わなければならなくなります。
 もしこの残業代を支払わないで済まそうとすれば、未払残業代の請求を裁判等で受けることとなるのが今の時代です。もしそのような請求があった場合には、2年前まで遡っての請求となります。また、全従業員にまで要求が広まる可能性もあります。それらの全てを支払うとなれば、1,000万円単位での支払いとなるケースも珍しくありません。そんな多額の出費は経営に大きな負担となることは容易に想像できます。
 もちろん、制度として残業代を抑える方法もありますが、それでも限度があります。支払えない給与が発生するような働かせ方はしない方が賢明です。もし時間外の割増を支払うのなら、新たに労働者を雇用した方が、人件費が安くなる可能性もあります。長時間労働の削減を考えるのであれば、必要人員が足りているのかどうかも検討する必要があります。

 労働基準法で定められた労働時間を超える時間外労働(残業)をさせるには、時間外労働・休日労働に関する協定(以下「36協定」とします)の締結と労働基準監督署への届出を必ずしなければなりません。この36協定の提出がないまま時間外労働をさせた場合は、仮に残業代を100%支払っていたとしても、時間外労働をさせたこと自体が違法行為となります。
 通常の36協定は、1カ月の時間外労働の上限が45時間となります。36協定を締結・届出していたとしても、この上限を超える労働をさせると、やはり違法行為となります。時間外労働は、必ず36協定の上限を守らなければなりません。
 でも、月45時間では全然足りないという企業も多いと思います。例えば、月の出勤日数が20日として1日2時間の時間外労働をさせるとした場合、それだけで40時間となります。日常的に2時間の時間外労働があったうえで土曜日出勤をさせると、もう45時間は超えてしまいます。あるいは1日3時間の時間外労働をさせていれば、それだけで60時間になってしまいます。3時間の時間外と言えば、仮に18時が定時であれば、それから21時までの残業です。あるいは、始業時間前に1時間の時間外労働を行い、定時後に2時間の残業をしている場合でも3時間の時間外労働となります。もし、その程度の時間は残業しているのが普通であるとするなら、すでに36協定の時間数を大幅に超えている可能性があります。

 そのために月45時間の時間外労働では業務に支障をきたすという企業の場合は、現時点では「特別条項」を付記するという形で45時間を超える36協定の締結が可能となっています。この特別条項付き36協定では、現時点では上限を何時間に設定しても良いことになっています。何度も「現時点では」と書いているのは、今後この特別条項が廃止となる可能性もあるためです。もし廃止となれば、時間外労働は月45時間以内に抑えなければならなくなります。そのときになって慌てて対応しようと思っても、すぐに労働時間の削減ができるものではないと思います。今のうちから、長時間労働の削減に向けて、労使共に対応していかなければならないとお考えいただいた方が良いと思います。
 特別条項を付けるとしても、厚生労働省では恒常的に80時間を超える時間外労働をさせたり、恒常的でなくても100時間を超える時間外労働をさせたりした場合は、心身への悪影響が大きいとして回避することを勧めています。過剰な長時間労働となるような時間設定は避ける必要があります。この特別条項を付記した36協定も、当然に決められた時間数を超えて働かせた場合は違法行為となります。特別条項を付けたからといって、何時間でも時間外労働をさせることができるわけではありません。
 また、特別条項付き36協定を締結・提出している企業の中には、恒常的に45時間を超える時間外労働をさせているケースがあります。確かに、特別条項は45時間を超える時間についても協定を結ぶことができますが、それは1年のうち6か月を上限としているのが一般的だと思います。これは、通常の36協定の上限を超えることができるのは、「臨時的なもの」として「1年の半分を超えないことが見込まれること」となっているためです。特別条項を付けたからといって、毎月のように45時間を超えて働かせることができるわけではありませんので、お間違いのないようにご注意ください。

 ここまでは時間外労働をさせる場合の法的な整備についてお話いたしました。次回は長時間労働削減そのものについてのお話をいたします。
2016.12.20


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