「高度プロフェッショナル制度」について
 選挙も終わって、やっと国会が前に進む状況になったようです。この次の通常国会では、「高プロ」とも略される「高度プロフェッショナル制度」について、議論される可能性が高いと思われます。

 そもそも、「高プロ」とは何なのか?ということですが、現在、労働基準法では週40時間1日8時間を超える労働をさせることは禁止されています。勘違いされている方もいらっしゃるかもしれませんが、これを超える時間数の労働をさせることは違法行為なのです。しかし、現実には時間外労働は存在します。これについては、いわゆる36協定を取り結び労基署へ提出することによって協定に記載されている時間までは違法とはしない、という扱いになっています。そして、本来は違法である時間外に働かせたということで、割増賃金を支払わなければならないという規定があります。
 「高プロ」は、「一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者」という限定を設けて、尚且つ、長時間労働を防止するための措置を講じる前提で、この36協定や時間外労働の割増賃金の支払いを不要とする、という制度です。

 この一定の年収要件の額については、一応、1,075万円以上という数字が出ていますが、これはまだ変わる可能性のある数字です。一旦、1,075万円という額で決めて、後日変更することも十分にありえますし、法が成立する時点でその額で決まるかどうかも現時点ではわからないと思っています。
 というのは、法案の条文そのものには金額の規定がないのです。つまり、年収要件については法改正しなくても変更可能ですので、比較的簡単に変えることができるものになっているのです。中小企業の場合、年収1,000万円を超えるような従業員はいないと、他人事のように思っていらっしゃる場合もあるかと思いますが、法律が成立した後、比較的早い時期に年収要件が引き下げられて、対象労働者が従業員の中に生じることがあるということを否定しきれるものではありません。

 もう一つの要件として、「高度な職業能力を有する」という点があります。具体的には、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等が考えられています。これも、現状ではごく限られた業種だけが対象になっているように見えますが、対象業務が拡大する可能性があることは、派遣労働の対象業務が拡大されたことを考えると、否定できるものではありません。

 これらを考えれば、ごく普通の中小企業であっても高プロとは全く関係ないとは言いきれなくなる可能性を考えておく必要があるのではないか?と思います。

 高プロは残業代ゼロ法案などと言われて、働かせ放題になるというような話も出ていますが、企業側から考える場合は、そのような安直なものではないと認識しておかれた方が良いと思います。この制度に関しては、実際には様々な制限が設けられています。現状の法案の段階で、事業主と従業員代表による委員会を設置し、以下の事項を決議して労基署へ届け出ることが必要です。
 1. 対象業務
 2. 対象業務に就かせようとする従業員の範囲
  ・書面による合意に基づいて職務が明確に定められていること
  ・給与額が、厚労省が定める給与の平均額の3倍(1,075万円)を超える額であること
 3. その従業員の「社内にいた時間」と「社外で労働した時間」を把握する措置をとっていること
 4. 次のいずれかの措置をとること
  ・始業から24時間以内に一定の休息時間を確保し、かつ1か月の深夜労働の回数を法定以下にすること
  ・社外で労働した時間について厚労省が定める時間を超えないこと
  ・4週間に最低4日、かつ年間104日以上の休日を確保すること
 5. 年次有給休暇以外の有給休暇を与えることや別途の健康診断を実施すること等を決議で定め、事業主が講じること
 6. 苦情処理機関を設けること
 7. 同意しなかった対象従業員に不利益な扱いをしないこと
 これらは、今後の国会での審議で、より厳しい内容に変わったり決めるべき事項が増えたりする可能性もあります。

 高プロについては、労働時間の把握をしなくてもよくなるというものではない、ということを認識していただく必要があります。労働時間の把握は一般の従業員同様、公正に行われなければなりません。
 そして何より認識していただきたいのは、高プロは無制限に残業を命じることができるという制度ではないということです。この制度は、あくまでも給与の支払いの基準を労働時間ではなく成果に求めるというものです。労働者本人が法定の労働時間を無視して働いたとしても、そのことによって高い成果を得ることができるのであれば、その働き方を妨げないというものなのです。もし、高プロを導入することによって過労死が発生するのであれば、それはこの法案の精神から外れることとなります。一般的な従業員より必要以上の長時間労働をしないように配慮しなければならなくなるものであるとお考えください。

 根本的な問題として、成果を基準として公平公正な評価ができるかどうかが大きなポイントとなります。今後は、成果で評価ができるような企業となる必要が出てくるかもしれません。

 個別の企業における対応は、別途ご相談ください。
2017.10.3



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