退職後6カ月以内に同業他社に就職した場合は退職金を支払わない旨の規定を設けています。これに従って退職金を支給しないことは有効でしょうか?
その再就職が競業行為であり、顕著な背信性がある場合は有効となる可能性があります
就業規則に、退職後、一定期間(6カ月や1年等)退職した従業員が競業関係にある業務に従事すること(同業者への転職・同業種での起業)を禁じる規定を設けている事は多いのではないかと思います。これに合わせて、このような場合においては退職金の一部又は全部を支給しないという規定を定めている事もあるかと思います。
この場合において、この規定が抑止力のためではなく実際に退職金を支払わなかった場合には、それが有効かどうかが争われる可能性があります。単純に、「競業禁止事項に違反したから退職金を支給しない」ということだけでは、無効となる可能性があります。
該当する業務そのものが従業員と顧客の個人的な結びつきに依存していて、当該従業員が退職後に競業行為を行うと顧客も付いて移動してしまい、会社の経営状況が相当程度低下するおそれがあるような場合は、従業員と顧客の関係が途切れると思われる期間に限って競業を禁止する目的で退職金を支給しないことは、一般的には合理性・必要性があるといえます。
しかし、そのことだけでは有効とは言えず、その競業行為によって退職金の支給をしないほどの相当性があるような顕著な背信性があることが必要であると考えられます。その判断は、退職金を不支給とする状況の必要性、退職に至る経緯、退職の目的、競業行為による会社の損害等の状況を総合的に考慮すべきものと思われます。
競業行為を理由とする退職金の不支給規定は、その規定の内容(該当する事業の性質、規制する期間、規制する競業の業務内容、減額率等)が合理的でなければならないのは当然の事です。抑止力を期待する意味で、こういった規定を制定すること自体は良いと思いますが、具体的に適用する場合には、慎重に検討する必要があります。
尚、退職金の不支給ではなく、競業禁止の規定そのものが職業の選択自由の原則に違反すると考える向きもありますので、十分に御注意下さい。
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2012.1.22