賃金体系を基本給と職務給としています。人事評価により降格することとなった従業員の給与は減額しても良いでしょうか?
降格に関して就業規則等に規定があり、その降格に正当な理由がある場合は、減額しても良いこととなりますが、十分な注意が必要です
日本の企業では、長年職能資格制度が採用され、職能資格(等級)によって賃金や役職が決まる方式が多く使われてきました。職能資格制度の中では賃金(給料)と具体的な仕事との関係性は分離されていましたので、降格したからといってすぐに賃金が減額するということではありませんでした。しかし、成果主義による職務給制度も取り入れられるようになり、職務給制度の中では賃金と具体的な仕事とが結びついているため、降格により賃金が減額する事が生じます。

降格ができるかどうかや、降格に伴って賃金を減額できるかどうかは、法的に決められたことではなく、むしろ就業規則(賃金規程)にどのように定められていて、会社・従業員の双方がそれについてどう認識しているかが問題となります。
しかし、降格について規定があったとしても、その降格が合理的でなく正当性のないものとなれば、会社側の権利濫用とされ無効となることもあります。もしも降格させるのであれば、適切な手順を踏んだ上でなければなりません。

職能資格制度の下での役職を下げるなどの人事権は比較的認められていますが、職能等級を下げることは、仕事を行う能力を保有するかどうかの評価結果となりますので、客観的に能力を保有していないことを判断しうる状況でなければ、認められない事となります。通常は、昇格させた時に比べて仕事に習熟していると考えられ、また年功的評価も失いますので、降格は認められない可能性が高くなります。
一方で、成果主義における職務給は能力の保有ではなく、能力が発揮された結果どのような成果があったかを評価しますので、場合によっては降格することも可能となります。この場合の降格は、職能資格制度での降格とは違い、仕事のランクや職位が下がることとなります。そのため、職務給制度の下では人事評価の結果として賃金が下がることもありえます。
実態としては、完全な成果主義による職務給制度を取っている企業は少なく、職能資格制度も加味した賃金体系としていることが多いようです。

職務給制度の下で降格させることによる賃金の減額にあたっては、就業規則(賃金規程)に根拠規定があるかどうかだけでなく、当該従業員と十分に話し合って、同意書を取得しておく方が良いでしょう。
また、賃金の減額は経済的な不利益となりますので、下げ幅については大きな額とならないよう十分な考慮が必要です。





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2011.11.6


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